しん、とした沈黙の中。
ふたりの息遣いだけが聞こえる。
全ての時間が止まったような、不自然な感覚がジルの脳内を支配してゆく。
ドンドン心臓を内側から殴られているように、動悸が腹の底からせりあがってくる。
蜜月三夜?なんだ、そんな馬鹿げた行事は。
くだらない、くだらないことだ。
アストリア王室に伝わる伝統など、スクロッカの片隅に住むしがない薬剤師にとって無縁の話だ。
知らない。
ラルフと結ばれるというのなら、いずれそうなるのだろうから。
自然なことだ。
生き物はそうして、生を営んでいくのだから。
自分の知ったことではない。
知ったことでは、ないんだ…
「このままお前がなにも言わないというんなら、
俺は遠慮はしないぜ。
エレナの
髪をすいて、
頬を撫でて、
口づけをして、
この腕に抱いてしまうぞ。」
自分を納得させるために、とっさに並べた理屈達はいとも簡単に崩れ散った。

