「そのように、思っていらっしゃったのですね。」
「……は?」
ぽつりと呟かれた言葉。
いつもと変わらないはずの淡々とした口調。
けれど、どこか均衡の崩れたような。
冷静に聞こえるけれど冷静ではないような。
なにかを堪えるように、声音が微かに震える。
「私の告白も、突拍子もないと。
ただの戯れ言であると。
そのように受け止めていらっしゃいましたか?」
ジルはようやくエレナの気持を察し、はっとした。
「ちが…」
言いよどんで、口を噤む。
否定したところで、自分の言った言葉をどうやって弁明するというんだ。
そんな彼を虚ろな瞳で見つめながらゆっくり、滑らかに言葉を発してゆく。
「私は、今はもう、先生に私と同じ想いを持って欲しいなどとは思っておりません。
こうしておそばにいるだけで、充分です。
けれど…あの時申し上げた気持ちは今でも変わらず大切に胸に秘めています。
先生が、私を近づけないのは、私の気持を蔑んでいらしたからなのですね。
…少し、がっかり致しました。」
エレナは悲しげに、微かに微笑もうとして…でも簡単にそれは崩れてしまった。
前掛けを外して椅子の背もたれにかけると、エレナはジルを振り返ることなく、静かに外に出ていった。
……ラルフの言葉が戯れ言で、エレナの言葉はそうではないと、そんなわけあるはずがない。
なぜなら、ラルフが冗談で言ったかなど、確証はないのだ。
違う。誰が言ったかの問題じゃない。
他人がどう思おうと人は、譲れない大切にしている感情がある。
それは決して邪険にしてはいけない気持ちだ。
なのに。
俺は、二人の想いを、軽い気持ちで踏みにじったんだ。

