自分の気持ちが曖昧なままエレナの気持ちに応えるわけにはいかなかったし。
それよりも、朝から晩まで山に入ったり医術に関して語り合ったり、知識を蓄えるのに夢中で、それどころでは無かった。
それはエレナも同じようで、毎朝、彼より早起きしては、ひとり山に入ったり、
家事をきっちりこなしつつも、右手がお玉で鍋をかき混ぜていれば、左手には医術の書を、洗濯物を干していれば、薬草や疫病の類に関する奇術をそらんじていた。
日常生活をしていても、エレナは食らいつくように、片時も勉学というものを手放すことはしなかった。
それはまさに、彼の若い頃そのものの姿で。
それこそ雛が餌をほしがるように、知識を欲した。
あの頃の、師弟のような関係にも満足していたし、このまま程よい距離を保った関係を続けてゆけば良いのでは…などと、甘い幻想を抱いていたのだ。
しかし、天はそんな優柔不断男の、平凡な日常を掻き乱すことを忘れてはいなかった。

