ガンガンと、二度、乱暴に戸を叩いて、
間を置いてから、再びガンガンガンガンと、立て続けに戸を叩く音が響いた。
「うるさい…。」
ボソッと不機嫌に呟くと、エレナはエプロンをさっと外してくすりと笑った。
「ラルフさんだわ。この扉の叩き方、変わらないのね。」
エレナは外を確認せず、いきなり扉を大きく開いて外の人物を歓迎した。
「おー!!エレナー!相変わずべっぴんだなぁお前は!」
低く野太い声が、やかましく響きわたった。
丸太のように太くてたくましい腕がエレナの腰を抱いて頬を寄せ、手荒い挨拶をした。
「ラルフさんもお変わりないですね。何年ぶりでしたでしょうか?」
身体を離して、エレナは訪問者を見上げた。
夫よりずっと背が高い。
山に行くのでそれなりに筋肉はついている夫とは違い、鳶の職に就いている彼の体は引き締まっていて、がっちりしている。
容姿もどこか繊細で中世的な顔立ちの夫にくらへ、この大男は濃いヒゲを短く伸ばしていて、豪快に笑う様はまさに漢の中の漢といった風貌だ。
何から何まで夫とは違うこの、ラルフという男は彼の少ない旧き友人である。
「最後に会ったのは、お前らが結婚する少し前じゃなかったか?
…て事は、もう十年になるのかぁー!時が過ぎんのははええよな、あっという間におんぼろのじじいになっちまう。
なぁ!ジル!!??」