「追い出されるのは、承知とはいえ、悲しい事には変わりありません。家族と離れ離れになって喜ぶ親不孝な娘が、どこにいるでしょうか。」
先程までの威勢はどこへやら、弱々しい声でそう言うと毛布を引き寄せて小さくくるまった。
「家には兄がいます。
私という手駒がいなくなって、うちの一家が…その、言い方が汚いですが、蔓延る手段はなくなってしまいました。
それでも、当主である兄がいるので、一家は潰れたりしません。
私は晴れて自由の身です。」
苦しそうだけど、どこか晴れやかな顔で、はにかむように彼女は微笑んだ。
「私の気持ちに応えろなどと、不躾な願いは致しません。ただ、おそばに置いて、先生は普段通り、生活をしてくだされば良いのです。
そこに、ちょっと便利な召使いがいるとでも思ってくだされば。」
驚いた。
王室に仕える高級官僚の、その娘が。
妙な異名を張り付けただけの、ちょっと腕のきく片田舎の医者の、召使いになりたいなど。
考えられない。高級官僚の娘といったら、綺麗な衣を着て、宝石を愛で、紅茶を嗜むものではなかったか。
いや。この娘は、ことごとく自分の想像を打ち破ってきたのだ。
枠にはまらない、自由で伸びやかで。

