「そ…うか、これは教え甲斐があるものだな。」
あえてはぐらかすような口ぶりで言う彼を、エレナはそうはさせないという風に、彼をじっと見つめた。
「私は、薬学に強い興味があります。
不可能と言われてきた不治の病を治す可能性を、ただ、山に生えている名も無き野草たちが、大いに秘めていると思うと、胸が高鳴ります。
でも、私はそれと同じくらいに、先生のお話を聞くと、どきどきが治まらなくて、落ち着かなくなってしまうのです。
それはもちろん、新しい知識や世界に触れる、喜びもあります。
でも、それだけではないのです。」
まだ、引き戻せる。
これ以上、聞いてはだめだ。
今まで、目を背けてきたからこそ築いてこれた、彼女との関係が、崩れてしまうのが怖かった。
まるで薄氷の上にたっていたようなその関係。踏み締めただけであっという間に、壊れてしまう。
でも、どうしてかその翠の瞳から視線を逸らせない。
逸らしたくない、と思ってしまった。
そんな彼の葛藤を知ってか知らずか、赤い小さな唇は、なおも懸命に言葉を紡ぐ。
「ただ、おそばで話を聞いているだけで、幸せなのです。
お慕いしております。
先生。わたくしは世間を何も知らない、知識の乏しい小娘ですけれど、掃除も洗濯も、食事のご用意も致します。
雑用でも、なんでも致します。
だから、どうか、わたくしをここに置いてくださいませんか。」

