神様の藥箋





「従者も付けず、そんな早くからか!?」




思わず大声を出してまじまじと目の前の娘を見つめる。




「すみません…。朝起こすのも、もう少し日が上ってからにしようと思っていたのですが、シュランの花を見てみたくて、つい…」





いや、確かに朝早く起こされてやや、機嫌は悪かったが、問題はそこじゃない。






「貴女は初冬のデルク村の早朝の気温をご存知か?」






「いいえ、けれど、とても冷え込むのですね。」






あっけらかんとして答えるこの小娘を、彼は半ば呆れて眺めてしまった。




はあっとため息をついて、彼女に向き合うと、エレナも神妙な顔になって体ごとこちらに向けてきた。





「…このあたりは初冬だと、氷点下を軽く超える。

そのおかげで、植物は己の体に豊富な栄養素を溜め込むし、シュランなど、貴重な薬草に恵まれるのも確かだが。


食料の少なくなった山から、狼などの獰猛な獣が降りてくるのも珍しくはない。

貴女のように、ひとりでふらつくか弱い女や、子供が抵抗できないのを理解して、襲ってくるのも珍しくはないんだよ。



だから、山に入るときは…」







「アスラの身を潰して衣にふりかけ、鈴を腰に付ける、でしょう?」





エレナは得意げにそういって懐の巾着から、赤いアスラの実を取り出してみせ、毛布とマントをばさっと翻すと、腰につけた小さな鈴が、チリンと鳴った。






「先生の受け売りですよ。」






そういって、子供のように得意満面に笑ってみせた。