「それで祖父母に無理言って、高校卒業して直ぐに上京した。お金も二人に迷惑掛けたくなくて、通信教育を受けながら学校から紹介された、美容室に見習い兼雑用係として働き始めたんだ」
働きながら、勉強してたなんて――。
今の私には想像できないくらい、大変だったんだと思う。
だって美容室って、朝早くから夜遅くまでしているイメージがあるし。
人気のお店だったら、数年先まで予約が取れないなんてことも
東京ならあるみたいだし……。
「そこで会ったのが、絢だ」
絢さん――。
彼女の名前を聞いた瞬間、喉の奥がヒュッと音を立てた。
「倉本絢……当時、店の№3に入る人気美容師だった。俺より二歳年上の彼女は、いつも明るくて年の割に幼い笑顔を浮かべて笑う、店のムードメーカ的な存在だった」
そう言えば、港であった時も大人なのに凄く笑顔が可愛い人だったな。
湊叶さんの好みのタイプって、絢さんみたいな清楚な感じなのかな。
だとすれば、私って正反対だよね。

