満開の桜が散った頃のことだった。

全身黒のスーツと薄いストッキングに身を包み、手にはA4サイズも入るくらいの鞄を持ってカツカツと慣れないヒールを鳴らす。


「ここ、で合ってるよね?」

白をベースにした3階立てのビルを見つめながら呟く。


"3F 時任ツアーズ"

目的としていた場所の名前を見つけて少し安堵した。
何せ慣れない土地なのだから。
まずは到着できるか、それだけでも方向音痴な私は不安だった。


そのまま少し古いエレベーターに乗り込むと、3のボタンを押す。
手持ちの鞄をぎゅっと握りしめ、エレベーターを降りた。
エレベーターを降りると少し広いエントランスホールに扉がひとつ。



「失礼します、今日から配属になりました瀬川です」

ノックした後、恐る恐る扉を開けて入る。