諒子の瞳だけにフォーカス。
松之は、その様子を唖然として見ている。
矢継ぎ早にシャッターが下り、フィルムを深町は
装填する。
旧式のフィルム・カメラだから素早い。
ひとしきり撮影をすると、諒子に微笑みが戻る。
その瞬間を、胸に抱えたカメラで
ファインダーをのぞかずに深町は、シャッターを下ろす。
「あ」、と、諒子はにこにこ。
「それがいいんです。映画だと『カット尻』っていうんです。
素の自分に戻る瞬間を言うんですけどね。
そこが素敵だ、って言って
それだけを集めた映画もあるんですよ」と
深町が言うと
面白いわね、と諒子は興味深げにそう言う。
私も、素の感じが好き、と......。
深町は、気づく。
さっきの既視感は、初恋の時。
初めに朋恵に出逢った時だ。
デジャ・ヴュではなかった。
それは、追体験。
あれは.....
深町は回想する。
中学校二年の夏の日、級友の言葉に
何気なく見た...その視線の先に居たのが朋恵だった。
彼女は、深町の視線に気付く。
秒の沈黙。ふたりの視線はしかし雄弁に何かを語った。
それからの目眩くような日々を予感した。
しかし、そのときめきが苦しくて、互いに目を伏せた....



