elevator_girl



「それは良かった。時々そうして歌うと良いですよ。
声を大きく出すだけでも、気持ち良いですものね。」と
深町は、自分のギター、ブラックの
フェンダー・ストラトキャスターのネックを撫でながら。


「はい、是非。」と
諒子は簡潔な言葉でそう答える。
柔和な印象だが、言語は簡潔。
意外にさっぱりとした印象なのは
音楽で解放された仲間同士、と言う
親近感からの事かもしれなかった。


深町は、心の軋みを覚える。
何故だろう、初恋の人を親友に譲った時のような
そんな、軋み。


...でも、仕方ないよな。と、深町は
優しく諒子の事を見る。

諒子も、深町を優しく微笑んで見ていた事に気付く。
初夏の風がふわり、と吹いて
いたずらに諒子の髪を靡かせ、甘い香りを
深町の元に運ばせる。

希有な事に、諒子のつけていたコロンは
初恋のひと、朋恵のつけていたそれと同じもののようだった。
深町はコロンには詳しくないが、それは確か、ムスク、と
呼ばれるもののようだ、と記憶を反芻した。