elevator_girl


「ふーん...そんなものかな」松之は不満だ。


「あ、それで、妹さんの方は、生まれてきた赤ちゃんに
そのお姉さんのパートナーの名前を暗喩させる名前を付けた。でも、そのメッセージは、彼女と、彼にしか分からないキーワード。その事を知るものは無い...。とか」


「ふーん、そうなの。そう言うものかな」
松之は思う、僕なら、そんな形では終わらないだろう、と。若々しい自負が彼を包んだ。
でも....途端、現状を思い、寂しくなる。

僕は....あの、リョーコさんの事を何一つ知らないんだ。
会いたくても、どこに行ったらいいかすら分からない。


深町は、松之の雰囲気を察し「あ、まあ、たとえ話しは苦手でさ。まあ、愛ってそのくらい不条理なものだ、って話しみたいだな、これ。気持ちが通じてれば、制度なんかはもう、ぶち壊してしまう、って事さ。
だから、もし、松とリョーコさんがそういう感じだったら...
何も心配することなんか無いんだよ。...なんてナ。」


「もし、そうじゃなかったら?」



「そん時は、まあ、縁がなかったんだろうな」


「そんな...。」励ましにもなってないじゃないか、と
松之は苦笑する。でも、彼の暖かい気持ちは伝わった。


「まあ、この街はそんなに広くない。俺たちはバスカーだから、ストリート・パフォーマンスしてればまた逢えるさ」
深町は軽く言う。


「そうかなぁ」松之はちょっと不安がまた再起する。


「そうさ。またいつか。逢えるだろう。それに、この間
ライブのチラシを渡してきたから、ひょっとしたら
来てくれるかもしれない。」