elevator_girl


深町は、言葉が苦手だけれでも、なるべく言葉を選んで。

「古い北ヨーロッパの言い伝えなんだけど、
絶海の古城に双子のprincessが居てね、」

その手の話が好きな松之は、深町の方を見て。
「うん...?」

「その二人には、お互いに家が決めた許婚者が居て..
二人ともそれぞれに、幸せだったそうなんだ。」


「ふーん、そんなものかな」と、松之は。


「ところが、ある時、4人で会う機会があって。
古城だから、舞踏会とか、そういうんだろうな。
その時に....。その双子の、妹さんの方かな。
お姉さんのパートナーが、気になってしまった。」


「ふーん...。」
松之は感じる、実感として。


深町は、あまりたとえ話が得意でないが、それでも続けた。


「それで、お姉さんのパートナーの方も、
妹さんが気になりはじめてしまった。
まあ、そういうのは雰囲気だから、そういう事もあるだろう。」


「うんうん」と、松之は生返事。
雰囲気なんかじゃない、それは。そう言いたいが...


「でも、当時の事だから、それはそのままだ。
妹さんのパートナーも、本気で彼女を愛してくれている。
だから、そのまま...で良いんじゃないか、自分さえ我慢すれば、と、彼女はそう思った。」


「良くないよ、それは。」松之は、彼らしく言葉を発す。


「まあ、松さ、これは伝説だから。それで、そのお姉さんの方も、その妹さんの変化には気づいていた。でも、
やっぱり当時の事だから、しきたりを重んじた」


「うーん...。」松之は唸る。確かに制度は守るべきだ。
しかし...?と、彼は思う。


「それで、お姉さんの方は、それを承知で結婚した。
妹さんも迷ったが、でも、当時の事だから。
従わざるを得なかった。」


「それで?」


「うん、物語としてはそれで終わりだけど、いつまでも
その4人は幸せに、いつも一緒に暮らしていたそうだ。
その絶海の古城は、今でも観光名所になってるらしいな。」