elevator_girl

「つまり、天女の幸せが至上で、漁師は、愛すれば故に敢えて別れを選択した、と...?」
と、深町は、普段あまり使わない言葉でそう答えながら、本当に松之は
ロマンチストなんだな、と追認した。そして、そういう彼の事を好ましく思った。



....俺は、いい加減だなぁ。
深町はそう思う。昨日は、リョーコさんと話し、愛らしい人だと思う。
今日は今日で、カナちゃんが可愛いと思ったり....。



それもまた、深町なりのパーソナリティだろう。
誰でも、可愛らしい人に逢えば「可愛いな」と思うだろうし、自然、笑顔にもなるだろう。
自然な事だ。だが、それは、松之が直面している愛とはまた、別の次元のものだ。
それは、深町もよく認識していた。だから....。松之の事をすこし、羨ましく感じていた。
深町とて、別段彼女に惹かれていなかったわけではなかったのだ。
ただ、表面的に軽く見える、と言うだけの事なのだが....。




「そう。わかってくれればそれでいいんだ。」松之は、柔和な表情で風に吹かれていた。
彼の短い髪を、海からの風が靡かせた。



でも....。
深町は考える。

そういう事を考えてるってことは、やっぱり。
好きなんだろうな、あの子の事が。とっても。

深町は、松之の気持ちを案じた。
ただ、何気なくふれあっただけのひと。
でも、気持ちが揺れ動く事ってあるかもしれないな、と。

たぶん、それじゃ....
今、気になって仕方ないんだろな、松之は...と。

もう会えるかどうかもわからないんだしな。

深町は、松之の気持ちを和らげようと考えて...

「なあ、松さぁ」


「何?」と、松之は、遠く、水平線を見たまま。