深町は、ひと気の少ない講堂だったけれど
それでも、ちょっと興奮していたのか、遠くで女子学生たちが
にこにこと笑顔で、...いや、くすくすと笑って
深町を見ていた。
でも、そんなことは彼にとってはどうでも良かった。
ただ、諒子と話す事が嬉しかったのだ。
なんとなく、話しているだけで楽しい。
こんな体験は、初恋の...そう、朋恵の時と似ていた。
7月7日。
朝は雨だったが、昼から曇り。
「弱ったなぁ、曇りの時の約束なんてしてなかったな。」と
深町が頭をかかえてしまった。
ま、いいか。行くだけ行ってみよう。
その日は、雨に備えて、また、叔父さんから車を借りてきていた。
叔父さんはカー・マニアなので、いろいろな車を持っていた。
今日は、松之も一緒だから、ロータス・7ではなく
クリーム色のフィアット500だった。
キャンバス・トップのそれは、古いタイプ。
空冷の小さいエンジンがリアに、ちょこんと乗っている。
その、可愛らしいボディは人目を惹くのか
大学構内に止めておくと、ひとだかりが出来て深町は閉口した。
その、人だかりの中には夏名もいたし、湯瀬昌子も居た。
誰のかな?なんて言いながらクリーム色の可愛らしい車を眺めていた。



