「ありがとう、湯瀬さん....よかったら、これ、一緒にどう?
お昼まだじゃないの?」とにこにこしながら深町は言う。
「....え...。」昌子は、深町を見上げた。
小柄な子だから、仰ぐような表情になる。
斜め前からみたまるい顔は翳りのある光線によって
すこし大人、みたいな雰囲気を醸しだされ
微妙なこの年代の女の子の、危やふやな魅力を
深町に見せた。
深町は、ちょっとどきどきとした。言葉が継げなくなった。
「...あの...失礼しますっ。」昌子は、踵を返して
ぱたぱた、と軽やかに白いスニーカーで駆けていき
部室を飛び出して。廊下を去っていった。
もともと、ひと気の少ないこの場所だから、そのスニーカーの靴音は
ぱたぱた、とコンクリートの廊下に響いた。



