エレベーターは、がちゃり、と
1階に到着し、機械的に停止する。
その、唐突な感じが松之はなんとなく好ましいと思う。
なぜかはよく分からないのだけれども。
たぶん、それは
幼い頃に見ていた紡織機のメカニカルなイメージ、それを好んで見ていたからか.....。
原体験は、大切である。
その後の一生の思考にも影響を及ぼすから、である。
尤も大切なのは、その環境そのもではなく
そこに漂う愛の記憶、なのだが。
エレベーターのドアが開く。
急に明るくなり、視界が開ける。
そこに待っていたのは、意外と
平然としていた深町の姿だった。
ラブ・ロマンスのクライマックスを演じたのだから
もう少しバツの悪そうな顔をしているか...と思いきや
..いや、そういう時こそ平静を装うものだろう。
「諒子さん、お帰りでしょうかと思っていました。」
深町は、レストランのボーイのようにおどけた雰囲気で、そんな台詞を述べた。



