彼女は僕の隣に腰かける。
「体調が悪そうな顔だったからさ、
どうしたのかなーって思っただけ」
お人好し、ってやつかな。

「……そっか。ごめんね?
考え事してたんだ」
「んー……、ならいいけど。
君は、なんて名前?」
マイペースというか、自由な人だな。

「僕の名前は、有村 陽斗だよ。君は?」
「……遙。ハルちゃんって呼んでよ」
今、声が変な気がした。雰囲気が、一瞬だけ揺らいだ。

「嘘つき、だね」
「へ?」
ハルちゃんは不思議そうに尋ねた。

「今、嘘ついたでしょ。
声、おかしかったし」
「へぇ。
……すごいね。耳いいんだ?」
「まぁ、見えないからね。
耳がよくないと暮らせないっていうか」

「あ、視覚を補おうと他の感覚器が敏感になるってやつ?
聞いたことはあるけど、よく知らない」
「多分、それかな?」
いまいち、自分ではわからない。

フワリと、柑橘系の香りがする。
「……レモン?」
「ん?あぁ、香水の匂いかな」
「香水……」
どんな人なんだろう。同じ年齢なのかな?
他人に興味を抱くなんて、いつ以来だろう。

「ココー!!」
少し遠くから
ハルちゃんによく似た声が聞こえた。

「……げっ」
嫌そうにハルちゃんは呟く。
「ココ?」
「古い寺で、こでらって読む。
んで、ココらしいよ?」
古寺さん、か。

また、ふわりとレモンの香りがする。
「じゃあ、また会えたらいいね」
「うん……?」
僕は首をかしげながら答える。

「ばいばい、ひーちゃん」
「……ばいばい?」
ひーちゃん呼びはやめてほしい、切実に。
まぁ、もう会うこともないだろうから別にいいんだけど。