目が見えないのが自分だけなんだと理解したのは小学校1年生の頃だ。

小学校にはたくさんの人がいた。僕の目に見えていたわけじゃないけれど、ただ初めてたくさんの声を聞いたんだ。
白杖の音は聞こえなかったし、みんなはどう歩いているのだろう、と考えながら歩いていた。

「あの杖……」
「ウワサの子よ」
などと言う、おばさんたちの声が聞こえる。母さんはその場から逃げるように、いつもより早足で進んでいたっけ。

囁くような声と好奇な視線が自分に集まっている事には気づいていた。
「白い杖だ」
と同じ世代ぐらいの声が聞こえた。

そのとき、俺は気づいたんだ。
「あぁ、そうか。みんなには見えてる。
僕だけ見えないんだ」って。

そう気づくと、一気に不安にかられた。みんなに支えてもらえなくては、生きていけないのは僕だけなのだ。
嫌われたら、終わりなんだ。

そう気づいてしまうと、納得していた。ああ、みんなが異常じゃなくて僕だけが異常なんだと。

生きていく上で、不安はやまほどあった。母さんに愛想をつかされたらどうしよう、僕は恋愛ができるのだろうか、僕は一人で生きれるのだろうか。

……でも、愛想をつかされても仕方がないことなんだ。僕が悪いんだから。

「あ、あの………」
気弱な女の人の声が聞こえる。
「あ、あのっ!!
す、すみませーん………」
誰を呼んでいるのだろう。

僕は声がする方を見た。
「あ、やっと反応してくれました……!!」
嬉しそうに笑った気がする。
「……僕?」
僕は首をかしげながら尋ねる。

「そうですよ?ずっと、
貴方のほう見て呼んでましたよ?」
「……ごめん、見えないんだ」
僕は困ったように笑う。

「あ、ご、ごめんなさい……。
わかんなくて……」
「いいよ、大丈夫。
いったい、なんの用かな?」
僕は笑って尋ねる。