公園は人の声が少なかった。
「手、触るわよ?
冷たかったら、ごめんね?」
母さんは僕の手を取りベンチの座面と背もたれを確認させてくれる。

僕はゆっくりと、ベンチに座った。
……うん。寒いな。ベンチが冷たい。

「ねぇ、ひーちゃん。
ベンチで座って待ってて?
あったかい、飲み物を買ってきたいの」
僕の名前がヒナトなのでひーちゃんと、母さんは呼ぶ。

もう僕だって中学生になったのだから、やめていただきたい。

太陽の「陽」に、北斗七星の「斗」で陽斗。ついでに、苗字は有村だ。

「わかった。僕の分も、お願いできる?」
「もちろんよ。ミルクティーでいい?」
「母さんのおすすめでいいよ」
僕は薄く笑って声の方に手を振った。

母さんの歩く音が完全に離れていくのを
確認してから僕は小さくため息をついた。

僕は昔から、誰かと自分を比べてしまっていた。負い目を感じてしまうからこそ、人について考えてしまう。
母さんには迷惑をたくさんかけてきたからこそ、わがままを言ってはいけないと思う。
母さんは僕のせいで、たくさん酷い目にあっただろうし、我慢だっていっぱいしてきただろうし、辛いこともいっぱいあったと思う。

だから、僕が我慢するのは当たり前なんだ。
自分の不運を嘆いてはいけない。
自分が不幸を語ってはいけない。
なぜなら、僕よりも母さんが辛かったと思うから。