僕には見えないけれど

出会って数日しか経っていないのに。
自分でもおかしいと思う。笑いたければ笑えばいい。
でも、私には安心できる場所がないんだ。

泣きじゃくりながら、私は千秋さんの名前を呼びつづけた。幼い子のように、お母さんを探す迷子の子のように。
「おき、て……、ちー、おきて……!!」
ぴくりと手が動く。

「……ん………?
えっ!?どうしたの!?」
千秋さんは驚いたように私を見ている。
私は泣きじゃくりながら、千秋さんに抱きつく。

「どこにも、いがないで……」
ずびずびと鼻を鳴らしながら、震える声で告げる。千秋さんはそんな私を優しく抱きしめた。
「ごめんね。大丈夫よ、ココ」
優しく頭をなでてくれる手は、暖かくて私はまた泣いた。

赤くなった目で小さく笑う彼女は、母親のように私を優しく抱きしめた。
「雪絵。大丈夫だよ。
どこにもいかないよ」
いいにおいがする。ふと、昔の記憶が頭によぎる。

幼稚園の頃。お父さんは仕事が忙しくて、いつもお母さんと二人だった。
家でテレビを見るときは、決まってお母さんの膝の上だった。
甘い匂いがする、お母さんのにおいが大好きだった。

私が泣けば優しく抱きしめてくれて、頭をなでてくれた。
『雪絵、大丈夫だよ。ママが一緒だから』
いつも、そう言って慰めてくれた。

なんで、今になって思い出すんだろう。

幸せだったな。


暖かい、涙がこぼれた。
「泣くな。今、暖かい飲み物作ってあげるから」
私の頭を優しくなでて、千秋さんはキッチンに向かった。