僕には見えないけれど

ふと目が覚めると、夜中の3時だった。
静まり返った部屋は薄暗く、なんだか不気味だった。私はのどが渇いて部屋から出る。
いくつも部屋があるけれど、隣の部屋が千秋さんの部屋だと知っていたので音を立てないようにゆっくりとキッチンに向かう。

「…………っ、…………!!」
リビングから何かが聞こえてきて、私は不思議に思い耳を澄ます。
「ぅ……、うぅ……」
嗚咽混じりの、うなされるような声。

私はゆっくりとドアを開ける。
「……や、……って………」
千秋さんが泣きながら、そう呟いていた。
「千秋、さん?」
私はゆっくりと顔を覗きこむ。寝ているようだけど、とても苦しそうだった。

どうしていいのかわからず、私は千秋さんを起こす。
「千秋さん?どうしたの?」
「……って、……やだ……」
表情に険しさが深まっていく。

どんどんと歪んでいく千秋さんの顔。
放っておいたら、どんどん千秋さんがどこかに行ってしまうようで。
「やだ、やだ……」
私の頬に涙が伝う。千秋さんの顔にポタポタと落ちる雫。

さっきまで、楽しかったのに。
さっきまで、暖かかったのに。
ここにいたいと、思ってしまったから。
千秋さんのそばにいたいと、心のすみっこで思ってしまったから。

最近の私はいつも一人だった。
ご飯はいつも一人。お母さんとお父さんの喧嘩をBGMに食べていた。
学校では私は先生にかばってもらってばかりの子だった。それは私の家の事情を思って学校ではつらくないようにという配慮だとはわかってた。
でも、そんなのは周りの子にわかるわけはなく「つまんない子」で、友だちなんていなかった。

学校帰りに誰かのお兄さんである中学生の人に殴られたり、蹴られたり、そんなことはしょっちゅうで。アザはどこにでもあるので誰も気づいてはくれなかった。言おうとも思わなかった。

家に帰る時間帯はお母さんは、トモダチとどこかにでかけていた。去年まではそんなことなかったのに。でも、大人だからいろんなことあるんだろうなと考えていた。
いくら一人にされても、苦しくても辛くても、お母さんもお父さんも大好きだった。

でも、私はもう知ってしまったから。
人と食べるご飯の暖かさも、誰かと過ごす時間も、優しくしてくれる暖かい手も。
「もう、ひとりに、しないで……」
私はぎゅっと千秋さんの震える手を握った。