私は一人、部屋でテレビも付けずにぼんやりとしていた。
どこに行ったんだろう。あの二人は誰なんだろう。考えても仕方のないことだけれど、考えずにはいられなかった。

窓を叩くような雨音が聞こえている。少し肌寒い。お湯を沸かして、紅茶でも入れたら千秋さんは喜ぶだろうか。
気づけば、千秋さんのことばかり気にしていた。父親や母親なんかよりも、千秋さんのことが気になってしまう私はおかしいのだろうか。

時計を見ると、もう2時間も経っていた。何をしていいのかもわからない。けれど、何かをしていなければ落ち着かない。
寒くなってきたので、コンソメスープでも作ろう。

そう立ち上がった時、床に落ちているケースのようなものを見つけた。軽く振るとカラカラと音がするので、薬やタブレット系統のケース入れだと思う。

何気なく、裏を確認するとプリクラと思われるものが貼ってあった。千秋さんだと思われる高校の制服を着た女の人と、似たようなデザインの制服を着る男の人がいた。

二人とも、笑っていてとても仲が良さそうな雰囲気だ。文字を読もうとしたとき、ガチャッと玄関の鍵が開く音がする。
私はそのケースを机の上に置き、逃げるように台所へ向かった。

水が入った鍋とカレーの鍋に火をかけて、意味もなくカレーをグルグルと混ぜ続ける。人のものを見るという背徳感があったのかもしれない。

「ただいま」
声のトーンは明らかに低く、ボスッとソファに座る音のほうが大きかった。
「……おかえりなさい?」
私はくるりと、千秋さんの方を見る。

目は少し赤くなっていて、タオルで水分を拭っていてよくわからないが髪や身体は雨のせいで濡れているようだ。
「ごめんね、遅くなって」
無理矢理笑う笑顔は、お母さんの笑顔にすごく似ていて身体が少し硬くなってしまう。

「大丈夫、です。お風呂洗っておいたんですけど、お湯のやり方がわかんなくて……」
私は千秋さんから視線を逸らすように、床をじっと見る。
「あ、ごめん。ありがと」
そう言うと何かボタンを押して、何かを書きだした。

「ここに、使い方とか何がしまってあるとか書いとくから勝手に使っていいよ。ただ、無くなりそうってなったら声かけて」
数日しかいない人間にそんなことまで詳しく教えていいのだろうか。

「お風呂、行ってくるね。一緒に入る?」
私は首を横に振る。
「そっか。すぐ出るから、出たら食べよ?」
私は首を縦に振った。

千秋さんは少しだけ笑ってリビングを出て行った。