私は風邪が治るまでは、千秋さんのお世話になる事になったらしい。
千秋さんがそう言うので、お父さんと話した結果なのだろうと私は何も言わなかった。

「部屋はリビングの横なら、好きに使っていいよ。多分、何もないから必要なものあれば言って。用意するから」
「服とか、何も持ってないんですけど…」
下着もパジャマも宿題も全部、家にある。

「家の鍵持ってるの?」
「ない、です」
「じゃあ、私が今から取り行ってくるよ。必要なもの、メモっといて」
買ったものを冷蔵庫にしまいながら、千秋さんは言う。

「私、行けますよ?」
自分で取りに行ったほうが早いし、迷惑をかけないと思う。
「いや、いいよ。風邪が悪化でもしたら困る」
それもそうか。私は黙って、メモに必要なものを書いていく。

「ココさ、自分のことを『不幸』とか『なんで自分だけ』とか考えたことある?」
「え、ないですけど……」
千秋さんはそっか、と小さくつぶやいて黙々と作業を続けていた。

「な、なにかあったんですか?」
私は、自分が何か気に触るようなことでもしたのではないかと正座をして千秋さんを見る。
「いや、平気だから。
気にしないで?」
千秋さんは手をブンブンと横に振る。

なんだか、千秋さんの顔は暗くて私は何も聞くことができなかった。
「あ、えっと、書けました」
「わかった。お風呂行ってきな。
カゴの中に昨日の服入ってるから」
そう言いながら、カーディガンをはおる。

「遅くなるかもだけど、勝手に食べたり飲んだり、寝てていから」
「え、あ、どこに?」
「ちょっと買い物」
私は呆然と千秋さんの後ろ姿を見ていた。

「いつかさ、本当のことを話すからさ。
今だけは、許してね」
そう言って千秋さんは部屋を出て行った。