でも、私は一人でお父さんといれる自信はない。お母さんがいつ帰ってくるかもわからない、あの家で耐えるしかできなくなるのかな。

「あんた、顔色悪いよ」
女の人は私の目の前にいた。
「古寺雪絵」
私は小さくつぶやいた。女の人はきょとんとしていた。

「こでらゆきえ、ね。
じゃあ、ココって呼ぶわ。
私は、のの、じゃなかった栗山千秋」
私は首を傾げる。
「親が死んじゃってね、最近おばさんの家の養子になったの。わかるかな?」
私はよくわからず、しばらく考えこむ。

「まぁ、そのうちわかるわよ。
好きに呼んでいいから」
頭をくしゃくしゃっと撫でられる。その手がとても心地良かった。

「ちあきさん……」
私は小さくつぶやいた。
「他人行儀すぎない?友達感覚って言っても、今日が初対面だもんね。難しいよね」
テレビの前のソファに座る。

「テレビ、見たいのある?」
私が首を横に振ると、不思議そうに私を見ていた。
「え?私がココぐらいの時は、テレビにしがみついてたけど。最近の子は違うんだ」
私の呼び方、ココで決定なんだ。

「ほら、そんなとこに座ってないでこっちきな」
千秋さんは自分の隣をポンポンと叩く。私は、ゆっくりと近づく。
「大丈夫。ココに酷いことしないって約束する。とりあえず、熱測って?」
私は千秋さんに従う。

「あんまり、下がってないっぽいね」
そう言うと、千秋さんはどこかへ向かう。
私は、ウトウトしながら千秋さんの様子を見ていた。

テレビはついていないし、人はいないし、音がない静かな部屋。
小さく猫のようにまるまって、目をつぶる。ふかふかしているソファは自分のベットよりも心地よかった。

数十分ぐらい経ったと思う。奥から千秋さんがお鍋を持ってくる。
「ごめん、おかゆとか作れないからおじやで我慢してね」
鍋敷きの上にお鍋。

おわんによそってくれる。
「あ、卵アレルギーとかない?
先に聞いとけばよかった」
「あ、大丈夫です」
私がそう言うとプニッと頬を押される。

私はきょとんとして千秋さんを見る。
「敬語。使わなくていいから」
「は、はい…?」
頭を優しく撫でられる。

「今すぐじゃなくていいから。
ゆっくり慣れてけばいいから」
そう言うと千秋さんは難しい本を読みながら、ノートをまとめていく。