僕には見えないけれど

浴室から出ると、タオルと服と下着がおいてあった。子どもでもいるのかな?
服は多分、あの人のTシャツだと思う。私が着るとブカブカだけど。

どこに行けばいいのだろう。私は適当にあの人がいる部屋を探し始めた。
部屋を開けても開けても、落ち着いた色合いでまとめられていて、物が少ない部屋ばかりで綺麗好きなんだなと思った。

一番奥の扉を開けると、ふわふわとしたぬいぐるみや教科書、文房具、制服、アルバム、CDがあり、他の部屋と比べられない生活感が強い部屋に私はぽかんとしていた。

「なにやってんの」
突然の声に、私の肩が飛び上がる。
「どこ、いけばいいか、わかんなくて」
私は扉を閉めて、振り返る。
「そう、ごめん。
そこは、もう二度と近づかないで」
その人は優しく笑ったはずなのに、とても寂しそうだった。

「ほら、こっち」
その人はすたすたと歩いて行く。私は、黙ってその人のあとをついて行った。

リビングには、テーブルとテレビ、ソファ、飲みかけのペットボトル、本棚ぐらいしかなかった。ぬいぐるみなんてひとつもなくて、あの部屋とは違いすぎて不思議だった。

「なんもないけど、適当に座って。
お腹減ってなくても、食べなきゃダメだから。明日、あんたの家に行って保険証借りてくるから」
「え、あ、だ、大丈夫ですから」
私は、隅っこに座って首を横にブンブン振る。

「私が嫌なの」
その人はペットボトルの水を飲み干して、ゴミ箱に投げ入れる。
「酷いことつきつけるようで悪いんだけどさ。多分、あんたの母親はあの父親から逃げたんだと思うよ」
本を読みながら、その人は言った。

「あんたにしてたこと、あんたの母親にもしてたんじゃないの?」
私は黙って座っていた。
「言いたくなけりゃあ、言わなくていいさ。それに、あの家で母親を待ってるって言うならそれはそれでいいし。ただ、一人になるかもっていうのは頭に入れときなさいよ」
その人は、くるくるとペンを回しながら言う。なんで、そんなことがわかるんだろう。なんで、ひどいことを言うの。

私にとってのお母さんは、無理し過ぎるほど優しすぎていつもボロボロなのにニコニコ笑ってた最高のお母さんだ。お父さんは、ひどいことをいっぱいするけど泣きながら私を撫でてくれる手は優しかったし、朝から仕事を頑張ってしてくれていた。
二人とも大好きで、二人とも嫌いだ。