目が覚めると私は、誰かにおんぶされていた。ふわりと漂うのは、甘いお菓子みたいな匂い。暖かいぬくもりが心地よかった。
「あったかい...」
「気がついた?」
さっきの女の人の声だ。

「あ、えっと」
「とりあえず、色々質問あるだろうけど黙ってて」
私は、小さく頷き黙って連れて行かれていた。

私、雨でびしょびしょなのに。
服とか、濡れちゃってるよね。
たくさん考えなきゃいけないことはあるけど、ただ今はこの人の体温が心地良かった。

何分、何十分、何時間、おんぶされていたかわからない。
女の人はガチャリと玄関の鍵を開けた。
「少し、待ってて。立っていられる?」
私は玄関の前に降ろされる。

「だ、いじょぶです」
そう言った私を確認すると、女の人は急ぎ足で部屋の中に入っていった。
綺麗に整頓されている玄関や靴箱。
整頓というよりも、物があまりにもない。

目立つものといえば、伏せられた写真立てぐらいだった。
「はい。タオル」
ぼふっと頭にタオルをかぶせられる。

いい匂いがするタオル。
「とりあえず、身体拭いて?
着れそうな服あるか見てくるから」
また女の人は部屋の奥へ入っていく。

自分の家とは違う、家。
人の気配がなく寂しい玄関と、私を気遣ってくれる優しい彼女と釣り合わなかった。