シャンプーのいい匂い。甘い匂い。
そして、規則正しい寝息。
僕に抱きついたまま寝ている。

僕が、雪絵さんにできることはなんだろう。きっと、雪絵さんの幸せを願うのなら僕はいないほうがいいんだと思う。
なんの才能もない。なんと取り柄もない。デメリットはいくらでもあるのに、メリットがひとつもない。

ガラッと扉が開く音。
「あれー?
陽斗、床に座り込んでどしたの?」
秋兄のやる気のない声。

「寝ちゃった、みたいで」
「えー、陽斗の彼女?」
「違いますよ」
秋兄が僕のそばに寄ってくる。

「ふーん、千秋呼んでくるわー。その子の家ぐらい知ってるっしょ~。陽斗は俺と帰ろー」
そう言うとまた、教室から出て行った。
何しに来たんだろう?


雪絵さんは爆睡しているみたいだ。
「好き、です」
僕は優しく声をかける。
きっと、僕はあなたに伝えることはできないから。卑怯だけど、許してください。

「ごめんなさい...」
僕は小さくつぶやいて、秋兄を待っていた。好きになれて、良かった。
こんなにも恋は苦しくて、切なくて、幸せな気分になれるんだ。

数十分ぐらい待っていると、秋兄と栗山先生がやってきて帰ることになった。
雪絵さんは眠そうに、「また、明日ね」と言ってくれた。