深い意味はないんだと、思う。
でも、『ひーちゃんみたいに』なんて言われると期待してしまう。僕は、ソワソワとしながら授業を受けていた。

授業の終わりを告げる鐘がなる。
「それでは、気をつけて帰ってください」
先生はスタスタと教室を出ていく。
暖かい、ぽかぽかとしているこの席。

雪絵さんは唸っていた。嫌な夢でも見ているんだろうか。僕はなんとなく、雪絵さんの方へと手を伸ばす。

ふわふわとした髪が指先に当たる。多分、頭のはず。
唸っている雪絵さんの頭を、僕は優しく撫でる。

僕をどう思っているんだろう。
どんな、顔をしているんだろう。
どんな、顔をするんだろう。
考えても考えても、想像がつかない。


「ねぇ」


雪絵さんの声に僕は後ろに後ずさる。
「なんで、そんな泣きそうな顔してるの」
「え」
僕は自分の顔をぺたぺたと触る。

雪絵さんは僕の手を握る。
「え、あ、えっ!?」
「もう少し」
そう言って雪絵さんは僕の手を自分の頭の上にのせる。

僕はどうしていいかわからず、ただ黙っている雪絵さんの頭を優しく撫でていた。
「……お母さんと、喧嘩とかもするけど仲はいいの」
雪絵さんは小さな声で話しだした。

「でも、父親はダメな人だったの」
僕は何も言わず、ただ頭を撫で続けた。
「お酒に飲まれて、暴力を振るってさ?
暗くて狭いところに閉じ込められたこともあったっけ」
ケラケラと笑いながら雪絵さんは言う。

「でもね、私、お父さんが大好きだったの。怖くて、大嫌いだったけど、大好きだったの。
酷いことをしたあとは、泣いて私とお母さんに謝るの。優しく頭を撫でてくれるの」
雪絵さんは淡々と話していく。