雪絵さんは丁寧に説明してくれる。
彼女は出会った頃からそうだ。僕を差別するわけでもなく、不思議に思うほどすんなりと受け入れてくれる。

「あの、無理しなくていいですからね?」
僕がそう告げると雪絵さんは優しい声で言った。
「ひーちゃんにも楽しんでもらいたいだけだから、気にしないで」
彼女は誰よりも人を思っていて、誰よりも優しかった。

こんな彼女だから、僕は好きになったんだ。

ひゅるるる、と花火が空に打ち上がる。
「好きです」
ドン、という低い音とともに僕は告げた。

「なんか言った?」
雪絵さんは言う。
「ありがとうって」
僕はにこりと笑う。
「いえいえ」
優しい声でも雪絵さんは言う。

きっと、彼女には聞こえなくていいんだ。
この思いは届かなくていい。
花火の音と心地良い雪絵さんの声を聞きながら、僕はこの恋心に蓋をした。

花火が終わると静かだった。
「綺麗だったー!」
栗山先生は楽しそうだ。
「トイレ行ってくる」
雪絵さんは言う。

「ほーい!待ってまーす」
栗山先生は言う。
「ひーちゃんは大丈夫?」
「はい」
僕は頷きながら答える。

「ひーちゃん、ココの事好きでしょ?」
僕は思わず表情が固まる。
「え、あ、いや、その」
「んふふ、ココには秘密にしとくから」
栗山先生は優しく僕の頭を撫でる。

「好き、です」
「伝えないの?」
「伝えられません」
「でもさ、ひーちゃん一人で考えるのと、二人で考えるのは違うじゃん?」
栗山先生は「ね?」と僕の頬をつまむ。

「千秋ちゃんが助言をしてあげよう。
『一方通行は簡単だけど、意見を共有するのは難しい。だけど、二人で考えたほうがより良い答えが見つかる』ってね!」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。

「失ってから気づくんじゃ、そんなの遅いんだからね」
悲しそうに栗山先生は言う。その言葉は重くて、僕は小さく頷いた。

「ただいま?おまたせ?」
雪絵さんが不思議そうに言う。
「おかえりなさい?」
「おかーり」
不機嫌そうに栗山先生は言う。

「どうしたの?」
「ひーちゃんが女々しくて」
「え?」
僕は首を傾げる。

「ハイハイ、帰ろーね」
めんどくさそうに雪絵さんは言う。
僕の初めての友達との外出は幕を閉じた。