朝から母さんは楽しそうに支度をしている。栗山先生たちもずっと今日の話をしていた。
「隣町のお祭りは派手だからね。はぐれないように気をつけてね」
母さんが選んでくれた服を着ながら、話を聞いていた。

「どうしたの?」
「お母さんよりお友だちといるのが楽しそうだから、少し嬉しくて少し寂しいかな」
ぽんぽん、と頭を撫でられる。
「お友だちは大事にしなさいよ?
あ、気になる女の子は特にね」
「母さん!?」
ふふっと笑う母さん。

かばんの中に財布とハンカチを入れる。
「アメでも持ってく?」
「要らないよ!?」
母さんの思考回路がよくわからない。

家のチャイムが鳴る。
「はぁーい」
母さんがパタパタと玄関に向かう。

「あらあら!可愛いお友達なこと」
母さんが楽しそうに笑う。
「陽斗、くんいますか?」
「あ、こんばんは」
僕は荷物と杖を持って挨拶をする。

「今日は、私が全て責任を持ちます」
栗山先生の真面目な声。
「かしこまっちゃって。
千秋ちゃんらしくないわよ」
母さんはクスクスと笑う。

「いってらっしゃい」
「いってきます」
そういえば、母さんがいない外出なんて初めてじゃないだろうか。

「ファー!緊張した」
「変な奇声あげないで。
ひーちゃん、大丈夫?」
雪絵さんのほうが大人らしいな。
「大丈夫ですよ」
僕は小さく笑いながら、答える。

僕は手を誰かに誘導される。細くて、冷たいものがある。指輪、かな?
「ねぇ、なんで盲導犬じゃないの?」
栗山先生の声が近くで聞こえる。
「母さんが、できるだけしてあげたいって言ってて」
僕は小さく呟いた。

「そっか」
「ひーちゃんはさ、高校どうすんの?」
「わかんない」
「どういうこと?」
「養護学校遠いし、普通の高校が受け入れてくれるかわかんないし」
僕は困ったように笑った。

「いろいろ聞いてるココはどーすんのー?」
「考え中」
いろいろあるんだな。

僕らはいろんな話をしながら、お祭りに向かった。