授業が終わると先生はすぐ、職員室に帰る。まぁ、僕が悪いから何も言えないんだけど。
ガラッと勢い良く扉が開く。
忘れ物でもしたのかな。僕は何をするわけでもなく、おでこを机につける。

「ぷっ!
なにやってんの」
ケラケラと笑う声に顔を上げる。
「ゆきえ、さん?」
「うん。おはよ」
言い方が先生っぽいなと思ったのは秘密だ。

「おはよ、ございます??」
「私もいるよー」
「栗山先生まで、どうしたんですか?」
僕は、首を傾げながら尋ねる。

「あたしさー、思ったんだけど」
突然、どうしたんだろう。
「あの千代が、ひーちゃんの授業全部やってるんでしょ?」
ちよ、って先生のことかな?

「だったら、一人増えても問題ねーよね」
「うっわ、ココものすごく悪い顔してる。あと、言葉遣いも悪い」
悪い顔ってどんな顔だろう。いいな、僕もいろんな表情が見てみたいな。

叶わない願いだと知りながら、つい願ってしまう自分が情けない。

「ひーちゃん?」
栗山先生の声に我に返る。
「具合悪い?」
雪絵さんの不安そうな声。

「だ、大丈夫です」
「考え事?」
「少し」
苦笑い混じりに僕は答える。

こんな、気持ちなんて隠してしまおう。
苦しい。痛い。
人を好きになるって、つらいんだね。

なんで、雪絵さんと同じではないんだろう。でも、出会えたのは僕が雪絵さんと同じではないから。

伝えてはいけない。
悟られてはいけない。

この芽生えた感情は、僕と母さんだけが知っていればいい。