ガラッと扉が開く。
「まいっちゃうわー」
「おかーり」
適当な返事をする雪絵さん。

「数学の江本から呼び出された」
ぺっぺっ、とわざとらしく悪態をつく。
「そこそこイケメンの?」
そんな先生がいるのか。

「私のタイプじゃない」
「ちーちゃんのタイプってなに」
栗山先生は少し悩んだようにうなる。
「ひーちゃんみたいな外見が好み!
性格はもうちょい元気な方がいいけどね」
ケラケラと笑いながら栗山先生は、僕の背中を叩く。

「ひーちゃん、かわいいもんね」
クスクスと雪絵さんが笑う。
「おぉ〜??」
栗山先生は楽しそうに笑う。
「何その顔。ぶん殴るよ」
声のトーンが一つ下がる。

僕は、どうしたいんだろう。
雪絵さんのことを知りたい。支えてあげたい。彼女のことを考えると、胸が苦しい。動機もする。
この気持ちに名前をつけるのなら、一体何なのだろう。

不安定な彼女を、支えてあげたい。そのために何ができるのだろうか。いや、僕にできることなんてあるのだろうか。

「ひーちゃん?」
僕は雪絵さんの声に、ハッとして我に返る。
「あ、はい?」
「考え事?」
心配そうな声に心が痛む。

「レモンの匂い、しないなーって?」
僕は苦笑いしながら言う。
「...意味ないから」
突き放すように雪絵さんはハッキリという。まるで、これ以上は聞いてくるなと言わんばかりに。

僕だから、話してくれないのだろうか。
栗山先生は知っているのかな。
考えると、だんだん虚しくなってきた。