目覚まし時計が6時を告げる。寒さに身体が震える。ドアをノックする音に、小さく返事をする。
「ひーちゃん、おはよう。体調どう?」
母さんが近づいてくる。ひんやりと冷たい手に僕は、ビクッと身体がはねた。

「あ、ごめんね。手、冷たかったね」
「寒い...」
「今日は、雨だから寒いって言ってたわ。
おでこ少し熱いけど、熱測ろうね」
雨だから寒いのか。僕は普段より厚着をして、学生服に着替える。

あくびを噛み殺しながら僕は洗面所に向かう。歯ブラシの位置やタオルの位置を確認してから、顔を洗ったり、歯を磨いたり身だしなみを整える。

リビングに向かい、イスに腰掛けると母さんが近づいてくる気配がする。
「朝ごはん、どう?これ、体温計ね」
手に握らされた、細長いもの。
どちらが測るところか確認して、体温を測る。

「ごはん、いらない」
もともと周りに比べて食が細かったこともあり、朝は食べないことのほうが多かった。ピピピッ、と機械音が響く。

「はい」
僕は机の上に体温計を置く。
「んー、普段より少し高いかな...」
母さんは、困ったように笑った。

「でも、ひーちゃんは学校行きたいんだよね」
「ごめんね、迷惑ばっかかけて」
僕は小さく謝った。
すると、頬をべしっと両手で挟まれた。

「謝らないの」
母さんは、真面目な声で言う。
「ひーちゃん、悪くないでしょ。
でもね、無理はしないで。これだけは約束して」
僕は頷く。

「ふふっ、ひーちゃんにも春が来たのかな?」
母さんは楽しそうに笑う。
「春?」
「なんでもないわよ」
クスクスと笑う母さんに、納得できないまま学校へ向かう支度を始めた。