僕には見えないけれど

ぼんやりと待っていた。すすり泣く声も、もうしない。静かな部屋で一人。まぁ、正確には二人なんだけれど。

本当は一人なのかもしれない。

なんて、考えても僕には知るすべがないので、どうすることもできないが。

「ありがとう」
「うわっ」
突然の声に間抜けな声を出してしまう。
「あ、ごめんね」
栗山先生が僕の頭を優しく撫でる。

「陽太...」
ぽたり、と手に何かが落ちてきた。グスグスと栗山先生が鼻をすする。
僕とお兄ちゃんは似ているのだろうか。

「ごめんな、さい、ごめんな、さい...」
幼い子みたいに泣き崩れる栗山先生を、なだめる方法を僕は知らなかった。

頭をなでてあげたい。でも、頭がどこにあるかわからない。僕は何もできずに、泣いている栗山先生の泣き声を聞いていた。

しばらくすると、膝が軽くなった。
「ごめん、ね」
栗山先生がケラケラと笑いながら言った。
強がりなのか、吹っ切れたのか、僕にはわからなかった。

がさごそと、音が聞こえる。
なんだろう?
「洗面台借りるわね!
こんな顔じゃココに笑われるわ」
かばんの中をあさっている音だったのか。

「ありがと、ね」
その言葉の意味はわからなかったが、笑っているような雰囲気だったので、僕は「なんのことですか?」と笑って言った。

ガチャっと鍵が開く音がした。
雪江さんかな?それとも、母さんかな?
母さんだったら、驚くだろうな。

「あれ?ちーちゃんは?」
雪絵さんがガサガサという袋の音と共にやってきた。
「お化粧直し?らしいです」
首を傾げながら僕は答えた。

「ふーん?汗でもかいて、塗装がとれたのかな?」
「塗装って...」
「ははっ、まぁ、化粧を気にするのが大人の女性らしいからね」
難しい世界だ。

「あの...」
僕は気になったことを聞いてみる。
「ん?なに?
あ、ジュース買ってきたから飲む?」
しっかり者のお母さんみたいな感じだなぁと思いながらお礼を言う。

「異性の好きな人がいなくなるって、どんな気持ちなんですか?」
好きな人という、ことがまず理解できない。母さんを好きという気持ちと何が違うんだろう。

「好きな人とかいないの?」
「人と関わってこれなかったから」
僕は小さく笑った。
「あ、ご、ごめん...」
雪絵さんは小さく謝った。