しばらく、ぼんやりと曲を聞いていた。
片耳イヤホンで。

「何聴いてるの?」
味噌汁の香りと共に雪絵さんの声がした。
「……名前とか、わかんないんですけど、
か、変わった曲ですかね?」
僕は自嘲気味に笑って誤魔化した。

「じゃあ、どんな歌詞?」
「……少年の苦悩をアップテンポにのせて?」
料理名みたいになってしまった。
どう伝えていいか、わかんないな。

「……んー、ん?」
「【Time Is Music】とか、聴いたりします」
僕は苦笑しながら答えた。
「あー、ココは知らないでしょ」
栗山先生が鼻であしらうように言う。

「人気なの?」
不思議そうに雪絵さんは言った。
「え、まあ……」
僕の母さんでも知ってるぐらいだ。

女の子の方が流行に詳しいと思ってたけど
少し違ったみたいだ。
「ココ、ある意味問題児だもんね」
栗山先生がため息混じりに言う。

「……うるさいな。
ほら、できたよ」
不機嫌そうに雪絵さんは呟いた。

「ひーちゃん、どう食べるの?」
「あ。クロック・ポジション?」
栗山先生が手をパチンと鳴らす。

「あ。そうです」
僕は小さく笑っててみせた。
「初めて、ちーちゃんが保険医に見えたよ」
雪絵さんは、皮肉たっぷりに告げる。

「うへへ〜、それほとでも」
「褒めてないから。早く説明して」
栗山先生はクロック・ポジションについて
雪絵さんに簡単に説明していく。

「ふーん……、えっと」
雪絵さんは唸りながら考えているようだ。
「箸は6時の方向。3時の方向にうどん。
9時の方向に中華サラダ。お茶は11時の方向」
雪絵さんが不安そうに呟いた。

「ありがとう」
僕は笑って、箸を手にする。
「いっただきまーす」
栗山先生が声を弾ませて言う。