しばらく、うとうとしながら車に揺られていた。

「よし、ついたよー」
栗山先生はガチャッとドアを開ける。
「あの、雪絵さん……?」
僕は声をかける。

雪絵さんはすやすやと眠ったままだ。
ガチャッと音がすると、左側から冷たい風が当たる。
「ココ、起きて。降りるよ?」
栗山先生の優しい声。

「……ん、………」
もぞもぞと動く雪絵さん。肩から彼女が離れていく。
それが少し、残念だったり。

「陽斗くん、降りれる?」
栗山先生が左側から話しかけてくる。
「多分、大丈夫です」
僕は右側のドアを開けて降りる。

「ごめんね、ココが起動してなくて」
ロボットみたいな言い方だな。
「大丈夫です」
僕は、車の扉をゆっくり閉める。

「あの、どっち向きで停めましたか?」
「あっ、ごめんね。
陽斗くんにとって玄関が近いように
後ろ向き駐車をしたよ」
白杖で自分の安全を確認してから、僕は左回りに90°回転してから進む。

車のドアが12時の方向だとしたら、玄関は9時の方向。玄関まではなんの障害物もない。

僕の家は玄関の前に一段、段差がある。僕が玄関だとわかりやすいようにだ。コツン、と白杖が何かに当たる。

白杖に当たったものが、どういう高さかを確認する。ついたみたいだな。
爪先を段差にあわせて、ゆっくりと段差をのぼる。
「すごいね、陽斗くん!!
記憶力っていうか、頭いいでしょ?」
後ろから栗山先生の声が聞こえる。

「……そう、ですか?」
普通ぐらいだと思うけどな……。
「カギ、開ける」
雪絵さんの声がする。

「……えっと、おはよう?」
僕は小さく呟く。
「……ありがと」
話が微妙に噛み合わない。

鍵は確か、ポケットの中だったな。
「はい」
僕はカギを差し出す。
「ぅ、どうも……」
絞り出すような声。