僕には見えないけれど

栗山先生の車は、香水のにおいがした。車に揺られながら、昼御飯のことを考えていた。まぁ、食べなくてもいいか。
一食ぐらい食べなくても、平気だろう。

バラードみたいな曲が流れている。トン、と何かがもたれ掛かってくる。
「えっと、雪絵さん……?」
返事はなくて規則正しい寝息が聞こえる。

「あはは、ココ寝ちゃってるでしょ?」
「あ、はい」
いつものことなのかな?

「ココ、車に乗ると寝ちゃうんだよね」
栗山先生は楽しそうに笑う。
「……ココ、変じゃなかった?」
柔らかくて、優しい声。

「……変って言われても、
雪絵さんのことよく知らないですし」
僕は控えめに笑う。

「ココはさ、男の子が苦手なんだよね。
理由は、話してくれないんだけどね」
寂しそうに栗山先生は言う。

「……ココと仲良くしてあげてね?」
「……は、はい」
僕はうなずきながら答えた。
仲良くできればいいけれど...。

首に雪絵さんの髪が当たって、なんかくすぐったい。
「ん……、ちょっと………」
雪絵さんはぐーぐーと眠っていた。

「寝かしてあげて?
ココは眠たいときに寝ないと、寝れない子だからさ」
こんなに、くすぐったいのに?

「陽斗くんのご家族は家にいる?」
「あ、いないです。
16時頃に仕事が終わるらしいです……」
甘い香りでもない柑橘系でもない、シャンプーの香りが鼻をくすぐる。
……雪絵さんのかな?

変なことを考えないように、頭をブンブンと振る。
「じゃあ、お邪魔してもいい?」
「いいですけど……」
僕は小さく呟く。

「よしっ、レッツゴー!!」
栗山先生は楽しそうに言う。
……楽しそうだな、栗山先生は。

「眠たかったら、寝ていいからね」
「はい、ありがとうございます……」
僕、車のなかじゃ寝れないんだけど。