僕には見えないけれど

どうしよう。二人とも無言のまま立ち尽くす。一人に行けないこともないが、車の位置がわからなければ進むこともできない。

「……っ、行こう!!」
何かを決心したように雪絵さんは言う。
「……う、うん?」
僕はよくわからなくて小さく答える。

「えっ、えっと、……どうしたらいい?」
あ、そっか。
わからなくて、悩んでいたのかな?

「手を引っ張ってもらえれば……」
「えっ」
雪絵さんから驚いたような声。

僕は首をかしげて雪絵さんの方を見る。
「ま、待って!!!こ、心の準備が……」
どうしたんだろう。

「……手を繋いでも、
目が見えないのが移りはしないよ?」
「ちっ、違う!!ただ、……怖くて………」
声が震えていた。

「……ごめ、んなさい……。
嫌な思いに、させた。そ、そんな
悲しそうな顔しないで………っ」
雪絵さんに僕はどう映っているのか
わからない。

だけど、彼女はきっと静かに泣いているんだろうな。

ぐずぐずという音が聞こえる。
「……ごめん。
怒ってないから、泣かないで?」
僕は小さく笑う。

「ひーちゃん、悪くないよ……。
……行こっか」
雪絵さんがゆっくりと近づいてくる。昨日と同じ、心地いい柑橘系の香り。

僕の左手を掴んで、手を繋ぐ。ぷにぷにとした手。僕より高い体温。そして、震えている僕より小さい手。

不謹慎にもドキドキしてしまう。母さんとも、看護師とも違う女の人の香り。

「えっと、右回りで半回転します」
言われた通りに行う。
「……ドアはどっちが先にでる?」
雪絵さんは困ったように尋ねる。

「あ、雪絵さんで……」
「うん。わかった。じゃあ、6歩ぐらいで出口だよ」
誘導のまま足を進める。

「あっ、足りなかった……。えっと、プラス4歩!!」
僕は小さく笑う。素直にかわいいな、と思った。

「な、なに?」
「いや、楽しいなって……」
「ばっ、バカじゃないの!?」
怒られてしまった。