ガラリと扉が開く音。保健室の独特のにおい。消毒液や様々な薬品のにおい、そして養護教諭の香水のにおい。

「有村くん、体調が悪いそうです。
車の用意をしてくるので、しばらくお願いします」
いやいや、頼んでないし。
口から出そうになる言葉を飲み込む。

「んー、私が送りますよ?
あの子、私が送ってくようになったんで」
あっけらかんとした声が響く。

「そうなんですか?
では、よろしくお願いします」
そう言って先生は僕から離れて、保健室を出ていく。

「はぁ……」
養護教諭は嫌そうにため息をついた。
「……すみません」
僕はうつむきながら呟いた。

「あっ、違う違う。
あの人、苦手なんだよね……」
養護教諭はそう言って近づいてくる。

「……初めまして、私は栗山 千秋。
えっと、よろしくね」
ふわりと甘い匂いがする。

「……初めまして、僕は有村 陽斗です」
僕は小さく笑う。
「あ。君が陽斗くんか!!
細くて、真っ白くて……。かわいいね」
なんだろう。バカにされている。

「失礼だけど、聞いてもいいかな?」
……目についてのことかな。
初対面の人は大概聞いてくる。
「いいですよ」
僕はできるだけ笑顔で答える。

「目が見えないって、本当?」
「……えぇ、まぁ」
僕は困ったように笑いながら答える。

「じゃあ、私が今ここで服を脱いでもさ?陽斗くんはわからないってこと?」
「え、そうですね……?」
何を言っているんだ、この人は。

「ちょっ、ちーちゃん!!?
な、なな、何言ってんの!!?」
女の人の声が響く。

「あらら、雪絵ちゃん。
ざーんねん、起きちゃったか」
栗山先生は、クスクスと笑う。

「白衣を着ろっ!!」
脱いでいたのか……。
「はいはーい、仮病は黙っててー」
この人は、仮病なのか。

「……教師失格でしょ。
って、ひーちゃん!?」
ふわりとレモンな香りがする。それに、聞いたことがある声。

「ハルちゃん……?」
僕は首をかしげて声をする方を見る。