ご懐妊は突然に【番外編】

「おい、これは正気か?」

会場に降りていくゴンドラを目の当たりにして、匠さんは顔を引きつらせている。

「早くお乗りください。皆さまがお待ちです」

黒いタキシードを着た進行係の男性が無表情のまま言う。

胸には『MATSUI』と書かれたネームタグが付けられている。

「いやだ!俺はこんなもん絶対乗らないぞ!遥もどーして止めなかったんだよ!」

…そしてまさかの八当たり。

「仕方ないでしょ、お義母さんがやりたがってたんだから。親孝行だと思って乗りなさいよ」

この後に及んで駄々をこねる往生際の悪さに呆れてしまう。

「こんなのに乗ったら末代までの語り草にされ…」

「葛城さま、お時間です」抗議の途中でMATSUIは匠さんの背中を突き飛ばした。

匠さんが強制的に乗せられた瞬間、ゴンドラは即座に下がって行く。

「では、いってらっしゃいませ」MATSUIがふかぶかと頭を下げて私達を見送った。

「ふざけんな!MATSUI!後で絶対支配人に抗議してやる!」

匠さんは無理矢理ゴンドラに乗せられてご立腹のようだ。

その瞬間、私と匠さんを乗せたゴンドラにスポットライトが当てられた。

ドライアイスの煙がモクモクと上がるなか、アップテンポの曲にのせ、ゴンドラはゆっくりと下降していく。

さっきまで駄々っ子のようにゴネていた匠さんは、人前に出た瞬間に澄ました余所行きの笑みを浮かべる。

その豹変ぶりには我が目を疑った。

私も気を取り直し、口元に笑みを湛える。

客席を見渡すと、晴子さんと航生さんはお腹を抱えて爆笑していた。