ご懐妊は突然に【番外編】

「あらあ常務、この度はおめでとうございます。結婚式が楽しみですわ」

ユミは匠さんの嫌味をもろともせずにさらりと髪をかきあげて、ニッコリ微笑んだ。

「ありがとう。遥が退職したら寂しがるだろうから、家にも遊びに来てよ」

「行きます!」2人とも声を合わせて即答だ。

「ちょーイケメンの弟は生憎一人暮らしをしていて家にはいないけどね」

匠さんにチラリと横目で鋭い視線を向けられると私は身を縮めた。

「悪いけど、このまま遥を借りるよ」

「どーぞどーぞ、なんならそのまま帰っちゃってもいいですよー」ユミはニヤニヤ笑って冷やかした。

「さ、桶川部長を21階の応接室に呼び出してあるから行くよ」

同僚に見送られ給湯室を後にすると、そのままエレベーターに乗り込む。

幸い私達の他に乗り合わせる人はいなかった。

「なんでわざわざ21階に呼び出すのよ」私は不服そうに唇を尖らせる。

本社ビル最上階である21階には社長室と重要な商談用の応接室がある。

主に重役クラスのお客様が来社され時に使用している21階の応接室に、わざわざ桶川部長を呼び出したというのだ。

「ハクがついていいだろ」

匠さんがニヤリと得意気に笑ったので私は呆れたようにグルリと目を回した。


「それより遥手を出して」

私は反射的に右手を差し出したが「違う逆!」と言われ反対側を出す。

匠さんはポケットから指輪を出して私の薬指にそっとはめた。

「これって…」

5年前、匠さんがアメリカへ発つ前に贈ってくれたエンゲージリングだった。

「忘れてたろ?」匠さんは訝しげな視線を向ける。

私はブンブンと首を横に振った。

「匠さんがアメリカに行って寂しい時、いっつも眺めてた」

キラキラ光る指輪を眺めているだけで不思議と心が穏やかになったものだ。

「指輪は眺めるもんじゃない。身につけるものだよ」匠さんは目元を柔らかく綻ばせた。

「それに遥は俺のモノだっていう印だから」

匠さんは左手の薬指に光る指輪を眺めて満足そうにニッコリわらった。