「何度も言うが、ユウが、自分で選んだんだ」

HARUが重たい腰を上げた。
一歩、また一歩と。
緩慢な動きで、景斗との間合いを詰める。

「お前の出る幕じゃない」

いつでも掴みかかれる距離。
景斗より10センチ程度身長の高いHARUが、身体でプレッシャーを与えてくる。
緊迫した空気に、肌がぴりぴりと悲鳴を上げる。

それでも。
引けない。
今さら、これ以上失うものなんてないのだから。

「あんたはユウさんの隣にいるべき人じゃない」

迷いなく。はっきりと告げた。
HARUの片眉が、ぴくりと動く。

「……」

景斗の並々ならぬ覚悟を感じ取ったのか、やがてHARUはため息をついて景斗から視線を外した。

ソファの背もたれに腰掛ける形で屈むと「お前、変わったな」そんなことを呟いてひと息ついた。
その声は冷静に戻っていた。
脅しが無駄だと悟ったのかもしれない。

「ユウが、お前にどんな説明をしたか知らないが……
お前が怒っているのは、あれだろ?
彼女を強引に従わせてるからってことなら、それは違うぞ?
あんなものあろうがなかろうが、彼女は俺についてくるよ。断言してもいい。
ふたりの間で納得していることだし、別に弱味を握ってるからどうこうしたって話じゃなく――」
「ちょっと待って、」

景斗は途中からHARUの話の意図が分からなくなって、すかさず割って入った。
「弱味って、何のこと?」

予想外の景斗のリアクションにHARUの表情が固まった。
「……事情、全部聞いたんじゃなかったのかよ」
みるみるうちに『しまった』という後悔の顔色に変わっていく。