HARUがその目を鋭く開いた。
「お前にそんなことが言えるのか景斗」
その声は低く、やたらに響いて、景斗の身を揺るがした。

「さっさとユウを諦めて、他の女のところへ行ったって聞いたぞ。
正直、がっかりしたんだ。
お前がユウを捨てるとは思わなかった」

声に苛立ちが混じっている。
今まで見たことのない、HARUの怒り。
それらは景斗の全身の自由を絡め取り、ダイレクトに胸へと突き刺さる。

「僕は……」

掠れる声。
だめだ。こんなんじゃ。
これじゃあユウを守れない。
景斗は拳を握り締めた。

「僕は、なんだってするよ。
ユウさんが望むなら、なんだってする。
その覚悟でここへ来たんだ」

弱々しかった独白は、いつしか叫びに変わる。

「ユウさんが望むから、今まで、ふたりの関係を何も言わずに見守ってきた。
でも、もう黙ってなんかいられない!」

握り締めた拳を、景斗は壁に叩き付けた。
コンクリートの壁はドスッと鈍い音を立てる。

「HARUさん、あんたは卑怯だ!
あんたじゃユウさんを幸せにできない!」

「……」

HARUはソファにもたれたまま、悠然と足を組みながら、ただ黙ってその様子を見つめていた。