責められても文句の言えない状況だが、綾はそんな素振りもなく、にっこりと微笑んで首を傾げた。

「ときどき、ぼーっとしていますよね? 悩み事ですか?」

彼女はテーブルの上に並べられた大皿の創作料理を丁寧に小皿へ取り分けると、はい、と景斗に差し出した。
受け取りながら、景斗は曖昧な笑みで笑う。
「いえ、そんなんじゃないですよ」

認める訳にはいかない。その顔色を、綾はじっとうかがう。

「じゃあひょっとして」
彼女は箸を持つ手をゆっくりと下ろし、力なく、寂しそうな微笑みを浮かべた。
「今日のデート、つまらなかったですか?」

「いえっ、全然、そういうわけじゃあ!」
慌てて首を、手を、バタバタとせわしなく振って全身を使って否定の意を表した。

デートに身が入らなかったのは、彼女のせいではない。
ランチを食べて、ぶらぶらと歩きながらショッピングをして、彼女が好きだというビリヤードに興じて、彼女と一緒に過ごした時間はそれなりに充実していたはずだ。
夕べのユウとの一件がなければ、純粋に楽しいと言えただろう。

ただ、ことあるごとに思い出されるユウの後ろ姿が、景斗の集中力をやたらに掻き乱していた。

そんな景斗の姿を見つめながら、綾はカクテルのグラスを抱えて再びにっこりとした微笑を浮かべた。

「教えてくれませんか?
水原さんの考えていること」

聖母のような優しい笑みで問いかけられて、どうしようもなく景斗は口ごもった。

「……本当に、大したことではないんですよ」

なおも口を濁す景斗に、「水原さん、あのね、」と彼女はカクテルのグラスをコトリと置いた。