「それじゃあ、行ってくるね」
「気をつけて」

駅まで送るというHARUの申し出を断って、私は玄関で短い別れの挨拶をした。

もう戻ってきてはいけない。
今日で最後にしなければいけない。
でも、そんな別れの予感を彼に感じ取られてはいけなくて
私はなるべく、いつも通りに、冷静に振舞った。

彼の大きな身体に飛びつきたくなる。
その腕に触れたい。なんて。

ついさっきまで、思う存分触れてたはずなのに、どうしてほんの一瞬離れただけで、愛おしく感じるのだろう。
もう永遠に触れられないと思うと、気が狂いそうになった。


私がHARUに微笑みを送って、背を向けようとすると

「夕莉」

突然呼び止められて、私は振り返った。
見上げた彼はなんだか悲しそうな笑顔を浮かべていて、一瞬どきりとする。

「……帰ってきてくれるよな?」

呟いた彼はなんだか捨てられた子犬のような顔をしていて、どうして分かってしまったんだろうと、ぐっと胸が詰まる。
はい。なんて嘘でも言えなかった。
「……何が?」
私は、よく分からない振りをしてごまかした。

「……見たんだろ? メール」
彼が小さく答えた。
私は何も言えなくなって、唇を噛み締める。

「俺の傍に居てくれ。夕莉。
行かないで。夕莉が……必要なんだ」