「やっと来てくれた」

真夜中の突然の訪問だというのに、HARUは嫌な顔ひとつしなかった。
それどころか、彼は玄関のドアを開けて私の顔を見るなり安堵の笑みを溢したのだった。

「あれから連絡が取れなかったから、少し心配してた」
そう言ってくしゃっと私の頭を撫でる。

当の私は仏頂面だ。
既婚者だということを隠して近づいてきた彼を、あげく私の裸の写真まで撮って脅すようなことをした彼を、未だ許した訳ではない。
それでもHARUの笑顔が嬉しい自分もいる。
昔の恋の残り火が、未だ胸の奥で燻っている。
憎しみと恋心、なんとも複雑な心境に表情だけが余計にブスッと膨れてしまう。

「……仕方ないじゃない。HARUが私の写真を持っているんだから」
「この写真がなかったら、もう来てはくれないの?」
「……当たり前じゃん」

そう答えながら、これが強がりであることを自覚していた。
写真のために仕方がなくだなんて、私がHARUのことを断ち切れていない言い訳でしかない。

「それは悲しいなあ」
そんな私の本心を分かっているのだろう、HARUは言葉ではそう言いながらも大して悲しむ様子もなく、リビングのソファに腰を下ろした私に温かい紅茶の入ったマグカップを渡した。

「言っただろ? アレを悪用するつもりはないって」
「だったら早く消してよ」
「約束するよ。夕莉が嫌な思いをするようなことには使わない」
「答えになってないよ」