「ワンッ!」
東堂くんが何かを言いかけるより先に、ハチがココア目指して走り出す。
ココアも嬉しそうにハチにじゃれついて、そんな彼らの頭上では
「……あは。ドーモー」
「…………」
氷点下の空気が吹き荒れていた。
「……あんた」
東堂くんの口がゆっくりと開く。
もちろん、そんな彼はいつもの尖った瞳に戻っている。
「…今なんか撮っただろ」
「…え?」
「撮っただろ」
「…すみませんでした」
どうやら東堂くんに誤魔化しは通用しないようだ。
「貸せ」
怒りに満ちた瞳で、東堂くんが手を差し出してきた。
「…え?なんで」
「当たり前だろ、削除する」
「え!?やだよ!
東堂くんの笑顔なんてその辺の芸能人なんかより超~レアショットなんだから!」
「知るか!犯罪だぞ盗撮!わかってんのか!」
あまりに怒っているからか、いつもよりもかなり喋ってくれる東堂くん。
「何言われても絶対やだ。
これは私の宝物にする!」
「はぁ?なんだお前…ほんと意味わかんない奴だな」
忌々しげに東堂くんはそう吐き捨てると、クルリと背を向け歩き去って行こうとした。
しかし。
「クゥ~ン!ワンワン!」
案の定ハチと離れたくないココアに断固拒否されている。
「………」
「まぁまぁ、そんな急いで帰らなくてもいいじゃん!
ちょっとお話してこ~よ~」
ベンチに座ってポンポンと隣を叩くと、東堂くんは「はぁ…」と深いため息と共に、やっぱり物凄い端っこに腰をおろした。