東堂くんは喋らない。






「ぷっ、バッカじゃない」



思わず吹き出した私を、山本がキッと睨む。



「お前なぁ、笑ってる場合か?
見てみろよ、あれ」



「え?」




山本に言われるまま見ると、私たちより少し離れた窓際の席。


やっぱりまだ分厚い本を読んでいる東堂くんの隣の席に座るのは、夏海ちゃんだった。





夏海ちゃんが、何やら東堂くんに話しかける。


すると東堂くんも、本から顔をあげて夏海ちゃんを見た。


一言、二言交わして。


ふっと東堂くんの口角があがる。





「………」


「お前な、ボヤボヤして、誰かにとられてもしらねーからな。
分かったらさっさと告って…」




山本の声が、どこか遠くから聞こえるみたい。






少し前までは、東堂くんの隣の席は私だった。




それが今は、夏海ちゃんになって。




ちょっと前まで私に見せてくれていたような、柔らかい笑顔を、東堂くんが見せている。





「おい、松原聞いてんのか?」



「…帰る」



「は?」



「…いいでしょ、担任、今日は帰りのSHRなしって言ってたし。…じゃ」



「あ、おい!俺の話はまだ終わってな…」




山本が言い終わる前に、カバンを持って席を立つ。



まだ人が疎らな廊下を歩きながら、はぁ、とため息が自然に漏れた。