第一走者の俺は、待機場所に腰をおろすことなく、バトンを体育委員から受け取るとスタートラインに並ぶ。
「東堂!リラックスしていけよ!」
第三走者である遠藤が、ポンッと軽く俺の肩を叩いて言った。
「…おー」
この一か月、同じチームとして付き合ってきたから分かる。遠藤がいい奴ってことは。
好き勝手に騒ぎ散らす山本とは違って、皆の様子を見ながら程よく盛り上げてくれる遠藤。
人当りもいいし、リレーメンバー全員と仲が良い。
でもその中でも、特に松原と仲良く見えてしまうのは
…俺の器が小さいせいだろうか。
「位置について」
とりあえず今は、目の前のリレーに集中だ。
“パァンッ…!”
スターターピストルが鳴るのと同時に踏み出した。
我ながらスタートは悪くなかったと思う。
そのまま無我夢中で走る。俺に向かって大きく手を振っている黒沢の姿が見えた。
「東堂~!」
そのままバトンを渡す。
黒沢がそれを受け取ろう…とした瞬間、隣の走者がドンッと黒沢の肩にぶつかった。
「いっ…」
黒沢の顔が一瞬、歪んだ。
でもそれは本当に一瞬のことで。
そのまま俺からバトンを受け取った黒沢は、風のように走り抜けていく。
…だけど
おかしい。
いつもの黒沢の走りじゃない。
もしかして、さっきぶつかった時…
俺の頭に嫌な予感が過った。